生前予約
2021年12月23日
身寄りのない方(独り身やおひとり様)が「生前に何も準備をせず」死亡した場合、故人の葬儀や火葬などについては、どうなるのでしょうか。
互助会などの契約をしたことで準備をしたつもりになっている方も多いですが、身寄りのない方の場合は、それだけでは全くの準備不足なのです。
「自分には親族がいない」と言われる方がいます。
それは、連絡を取っている、または頼れる親戚がいないという意味合いであり、ほとんどの方に親族は存在します。
なぜなら、民法では親族の範囲を
●配偶者
●6親等内の血族
●3親等内の姻族
と広く範囲定義をしているからです。(下記図参照)
図に記載されている範囲(緑色・紫色部分)の全てが「親族」となります。
身寄りのない方が死亡した際は、民法に則り、先ず、故人の親族を探すため役所が戸籍をたどります。
役所であれば戸籍の取得は簡単なのでは?と思われるかもしれませんが、実際は、本籍所在地の役所でしか戸籍の取得はできないことから、故人や親族が他管轄への転籍などをしている場合は、管轄の役所を巡り巡って戸籍を取得していくことになり、親族調査に相当の日数がかかることが多いのです。
その間、当然のことながら故人の葬儀や火葬をすることはできないため、連絡がつく親族を探し出すまでの期間、葬儀社のご遺体安置用冷蔵庫で保管されることになります。
役所は、親族の特定が終わってから、当該親族へ連絡を取り、「遺体の引き取りや火葬・埋葬を依頼する」流れとなります。
ここでは、次のような問題点が浮上します。
【親族と連絡が取れない場合】
役所が戸籍をたどり親族を特定後、その親族の住民票上の住所宛に通知をします。住民票上の住所に住んでいれば問題はないのですが、そうでない場合は役所といえども連絡の取りようがありません。親族を発見しても、連絡が到達しないこともあります。
【疎遠の親族と連絡が取れた場合】
●遺体の引き取りを拒否
身寄りのない故人は、全く会ったことのない親族であったり、お互いが関わり合わない親族であったり、疎遠になるには何らかの理由があります。
役所から突然の訃報の連絡および引き取り依頼を受けた親族にとって、葬儀や火葬・納骨を行うことは大きな負担となることは明らかです。
そのため、「他の親族を当たってほしい」など、遺体の引き取りを拒否される場合も少なくありません。
●遺体の引き取りを承諾
心ある親族が役所からの依頼を受け、葬儀や火葬を引き受けてくれることもありますが、その場合、故人の生前の生活を知らない親族は次のような問題に直面することとなります。
◉故人の納骨場所
◉関係者への連絡
◉葬儀費用の支払い
上記のような問題に戸惑い、決断が遅れてしまえば、葬儀や火葬まで時間を要することになり、葬儀社などでの安置期間が更に長くなり、利用料(※1日当たり約5千円~3万円程度)も日ごとに増えてしまいます。
親族と連絡が取れない、あるいは拒否された遺体は、長い期間を経て「身寄りがない」とみなされ、死亡地の自治体が引き取り、火葬・埋葬を行うことになります。
決まった形式で行われるため、故人が希望する葬儀形式があったとしても、望む葬儀は行うことができません。
遺骨については、管理者がいないため、自治体が一定期間管理をし、自治体ごとに決められた期間(5年程度)保管を行った後、合同埋葬する「無縁墓」に納骨されることとなります。
複数の遺骨をまとめて埋葬するので、無縁墓への納骨後にたとえ遺族が現れたとしても、遺骨を受け取ることはできません。
近年では、無縁仏となった遺骨が多く、安置する際には遺骨を粉砕し、体積を減らす処理が行われ、遺骨の一部のみを合祀し、残りの遺骨は産業廃棄物として処分するケースもあるといいます。
そんな悲しい末路にならないためには、どんな対策を取っておく必要があるのでしょうか。
「私は葬儀社で積み立てもしているし、予約をしているから大丈夫!」
本当にそうでしょうか?
事前に葬儀社へ予約をして、自身の葬儀に関する希望や意向を明確に伝えておけば、不安を解消できると思いがちですが、そこに落とし穴があります。
●葬儀社への連絡
葬儀社との生前予約の内容が実行に移されるのは、契約者である本人が死亡したときであり、そのときが来たことを葬儀社に知らせるのは、故人本人は当然のことながら不可能です。
病院などへ伝えていたとしても、病院が葬儀社へ連絡してくれるものと安易に考えてはいけません。
病院や施設などから葬儀社に連絡をすることはまずありません。親族や身元保証人へ連絡をして、その親族らが葬儀社へ連絡するのが手順です。
そのため、本人が生前予約をしている事実を親族(あるいは葬式を世話してくれることになるであろう人)に伝えておかない限り、葬儀社への連絡がなされず、予約内容が履行されないままとなってしまうのです。
●葬儀予約の履行
葬儀社が何らかの方法で故人の死亡を知ったとしても、葬儀社が施主の依頼なく、故人の生前の希望や意向のみから判断して勝手に葬儀を執り行うことはできません。
葬儀履行にも「親族」の同意というものが必要とされるからです。
以上のような事態にならないための方法として『死後事務委任契約』というものがあります。
死後事務委任契約とは、生前に、死亡後の葬儀の主宰、役所への行政手続き、病院代等の債務の清算、年金手続き、クレジットカードの解約など、様々な事務手続きを依頼しておくという契約。
一般的に、これらの事務手続きは家族や親族が行うものとされていますが、身寄りのない方の場合にはその死後事務を行ってくれる人がいない。
そこで、信頼できる誰かと「死後事務委任契約」を交わしておき、死後の煩雑な事務手続きを委任しておく方法を採ります。
死後事務委任契約は、契約により、通常親族しか行うことができないような手続の権限を与えることができ、葬儀など自分の意向を反映できます。
民法上、契約の相手方に制限はないため、法律家はもちろん、信頼できる友人や知人に依頼することもできます。
死後の意向を託す相手が決まると、ここから更に重要な葬儀費用の預け先を考える必要があります。
なぜなら、死亡の事実が金融機関に伝わると、口座が凍結されてしまう可能性が高いからです。
仮に、凍結前であったとしても、「親族でない第三者」が故人の口座から勝手に引き出すことは犯罪にあたる可能性があり、避けるべきです。
そのため、葬儀から納骨までの費用を確保し、預けることが必要となりますが、預け先には最も細心の注意が必要です。
第三者に「預けていた葬儀費用を横領された」という悪例もあるため、現金を預けることは到底避けた方がよく、確実に横領されず、死亡するまで引き出すことができない状態にすることが重要となります。
第三者と信頼関係を保ちつつも、安心できる預け方はないのでしょうか。
以上の問題は、近年の終活として「信託」を利用すれば解決できる可能性が高いとされています。
葬儀専門の信託を取り扱う機関も増えており、終活の一部としても注目されています。
葬儀信託とは、葬儀をするという目的に従って葬儀費用などを信託会社または代理店に預託し、死亡するまで信託会社等が財産を管理する制度。
①信託会社等が間に入るので信頼がおける。
②支払先を信託会社等に伝えることで、死亡後、信託財産から葬儀費用を直接葬儀社へ支払うことができるため、未払いがなく、葬儀社としても安心なシステムである。
③葬儀を行うための信託なので、当然信託口座は凍結しない。
など多くのメリットがあり、葬儀信託を利用することで、より安全に預託金を保管・管理することができます。
身寄りのない方が希望する葬儀などを行うためには、
❶葬儀社や葬儀内容を決め
❷死後事務委任契約を交わし
❸葬儀信託を利用し、葬儀費用を預託するというような段階を踏んで準備をしておく必要があります。
身寄りのない方の場合、特に❷の「死後事務委任契約」がカギとなります。
自身の葬儀を託せるような信頼できる第三者や代行会社を探すには、時として時間を要することになるかもしれません。
正しい知識をもって、早めに準備しておけば、遠い親族などに迷惑をかけずに、葬儀費用支払いの心配もない希望の葬儀を実現できるでしょう。
[希望の葬儀を行うために]
✔身寄りはなくても、民法上の親族の範囲は広く、役所から親族へ連絡が行く可能性がある
✔葬儀社と生前契約をしても、親族からの知らせや同意がないと葬儀は執り行えない
✔親族でない者が口座凍結防止のため口座から引き出すことは絶対に避ける
[生前にしておくべき対策]
✔死後事務委任契約を第三者と交わしておく
✔葬儀費用は、信託会社または代理店を通じて専用の信託口座に預託しておく